追う者のセオリーとは?
第18回麻雀最強戦・山口予選の決勝1本勝負。注目の弘中栄司は西家スタートとなった(動画ファイルはこちらから)。
半荘1回という、「超」のつくスプリントレース。たった1回のミスが、勝負を左右してしまいかねないだけに、どの顔にも緊張の色が浮かんでいるが、それでも「勝つのはオレだ!」という気概に充ち満ちているのも間違いないだろう。だいたい、「オレが勝てるだろうか」などという弱気の持ち主が最後の1卓にたどり着け るわけなどないのだ。
開局早々、肩にスポーツタオルを掛けた南家のオヤジが先制リーチをかけると、北家の哀河斗南(日本プロ麻雀連盟九州支部Aリーグ所属)がこれに飛び込む。このままだとリーチ のみのはずだったが、裏をめくると何とその が裏ドラで、悲運のマンガン献上。哀河はノーテンからの放銃だっただけに、やや勇み足かとも思われたが、これをきっちり咎められた格好となった。
こうなるとゲームが激しく動くのは必定だ。親番となったタオルオヤジが勢いのままにまず1000オールを引いた東2局その2で、その事件は起こった。 南家・弘中の配牌は字牌とマンズの多いゴツゴツした、仕掛けていってもハネ満クラスを望めそうな大物手の匂いがプンプンするもの。それでも弘中は、序盤に親に打たれた2枚持ちの に一切目もくれずに、ツモ山に手を伸ばした。
この場面を目撃していた僕は、とてもうれしくなった。言うは易く行うは難し――こういう を平然と見送ることは、アタマでは理解できていても、実戦ではなかなかできないのが麻雀。しかも、この半荘1回で全てが決まってしまう短期決戦で、すでに大きくリードされているのだ。ここは、見える手牌を使って少しでも差を詰めようと思ってもおかしくないところだろう。
しかし、僕は思った。こういう状況であるからこそ、弘中はあえて仕掛けることを自重したのではないか。一つでも仕掛けを入れてしまうと、三者からの注目を浴びるのは間違いなく、警戒されては出る牌も出なくなる。トップ目が上家であればなおさらで、ここは水面下に深く潜行しながらメンゼン進行するのが、追う立場の者のセオリーでもある。一発大逆転は、えてしてこういったケースで成就するものなのだ。
弘中、「完全勝利」で西日本大会へ
この弘中の選択はものの見事に奏功した。すぐに、さっき見送ったばかりのを自らアンコにすると、面白いように牌が重なり、何とメンホンのツモリ四暗刻のテンパイ。そして、今度は出アガリを拒否する強い意志の表れか。弘中はリーチを宣言したのである。
これにタオルオヤジが反応した。弘中の河は、明らかに変則手を大物手を示唆するもの。何とかせねばとんでもない何かが起こるという予感があったのかもしれない。2巡後、タオルオヤジが上家のロナウジーニョに似た兄ちゃんの切った牌に必然とも思えないチーを入れると、その直後に弘中が を手元に叩き付けたのである。
「8000・16000!」。弘中の勝利宣言とも思える凱歌のような申告に、唖然とする相手三者とギャラリーたち。それにしても、この決勝の場面で役満を完成させるとは、やはりこの男は強い。何がかというと、その精神力だ。僕は「ブルードラゴン福岡天神店」の決勝で健闘空しく惜敗した時の弘中の打ち筋を見た時から、それは感じていた。
これまでプロのタイトル戦などでの劇的な場面も数多く見てきた僕だったが、それらに勝るとも劣らない印象的なシーンだった。これを見ることができただけで、東京くんだりから山口まで足を運んだ甲斐があった――麻雀ジャーナリストとしての、僕の本音だった。
それでも、弘中はその後も一切手を緩めなかった。役満で「仕上がった」ような牌勢に押されたという部分もあったのだろうが、特にこの中では格上と目される哀河にまだ2回も親番があるのだから、安心などできるはずもない。麻雀はそれほど甘っちょろいものではないのだ。こういったところで変に「穴熊」に入るなどして必要以上に受けてしまうと、考えられないような大捲りを喫するのも また麻雀の条理で、その点でも弘中の戦いぶりは賞賛に値するものであったと思う。間違いなく在野の強者といえるだろう。
弘中にとってさらに幸運だったのは、その哀河がここにきてエンジン不調に陥っていたことだろう。早いタンピンのイーシャンテンが終盤までテンパイしないなど、とにかくツモがヨレていた哀河。弘中との勢いの差は歴然で、それでも地力と意地で必死に勝負の行方を先延ばししようと格闘する哀河だったが、オーラスも弘中が自らきっちり締めてゲームセット。
こうして、予選は稀に見る激戦となった山口読者大会の決勝は弘中の完全勝利に終わり、頂点を目指して戦い続けてきた弘中の執念は、最後の最後に実ったのだった。
弘中栄司――その名は、僕の「印象に残った強豪」として、間違いなくそのリストの一人に加えられたのである。
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