◆ 熊本の巻 〜その2〜


やっぱり熊本には「」がいた!

 熊本の街を潤す白川と坪井川に架かる橋をいくつか見物して、いよいよ今回の取材先である「ブルードラゴン熊本店」に向う。あらかじめ目印として市電の辛島町電停を降りてすぐの「サンロード新市街商店街」の入り口をマークしておいたのだが、現地で僕は思わず目を見張った。その商店街の幅の広いこと、広いこと。いや〜、これほど広い商店街にはこれまでお目にかかったことがない。
 熊本に行ったことのない人のために、参考としてその写真を掲載しておこう(左)。画像ではなかなかその広さが実感できないかもしれないのが残念だが、ちょうど写っているタクシーの大きさを考えれば何となくわかってもらえるのではないだろうか。4車線分は優にあろうか、とにかくむちゃくちゃ広いのである。
 ここ熊本の中心地は商店街が非常に広くかつ長いのが大きな特徴で、「上通り」や「下通り」などそれぞれがとてつもない数の商店を抱え、一大ショッピングモールを形成している。取材に訪れたこの日も多くの主婦や若者が行き交い、活気にあふれていた。

 さて、お目当ての「ブルードラゴン熊本店」は、新市街商店街のアーケードの途中を脇に入ったところのはず。事前にお聞きしていた目印の喫茶店の角を入って、(確かこの辺のはずなんやけど)とキョロキョロ辺りを見渡していると…お、あったあった、博多でも目にしたブルーの看板が。早速エレベータでお店の入居している6Fに上がって、やや緊張しながら足を踏み入れた。
  出迎えていただいたのは、松熊孝典社長。この熊本店はフランチャイズなのだが、その代表取締役を務める総責任者で、プロ連盟九州本部に所属する「グリズリー松熊」というプロでもある。その雀ネームとお名前のとおり、まさに「熊」のような体躯。(やっぱり熊本だけに「熊」なのか、しかし風貌まで熊さんとは…)と、やや失礼なことを心の中で思いながらお話に耳を傾ける。
 生まれも育ちも熊本という62歳のグリズリー松熊プロ。なるほど、見るからに「肥後もっこす」といった風情で、とても頼もしさを感じさせる熟年紳士である。何せこちらは、熊本に来るのは20数年ぶりのこと。お店の話を伺う前に、まずは熊本という土地についていろいろ話していただいた。

新幹線にかかる「熊本の未来」

 グリズリー松熊プロによると、例の市電のペインティングなどでも盛んにアピールしている「熊本城築城400年祭」は、行政が力を入れているわりには、一般市民の間での大きな盛り上がりはさほど感じられないとのこと。それよりは、3年後に迫った九州新幹線の全線開通による経済効果の方にみな大きな期待を寄せているのではないか、という。この連載の「博多編・その3」でも触れたように、九州新幹線は現在、熊本駅から約33キロメートル南に行った新八代駅と鹿児島中央駅の間の区間のみ営業中で、博多駅から新八代駅までは工事中なのだ。そういえば確かに、博多からの車中からも橋梁やら駅舎やらの工事の様子が見えた。
 九州新幹線が全線開業となったあかつきには、博多から熊本までかかる時間はわずかに35分。現在が1時間15分だから、 実に半分以下である。さらに、博多から終点の鹿児島中央までは現在の2時間10分から最速で1時間20分に短縮されるというから、これはもう九州全体、特に新幹線が県内を北から南まで縦断する熊本にとっては悲願なのだろう。お城が建って400年というのもめでたい話ではあるが、どうしてもこちらの方に関心が向くのは当然といえば当然かもしれない。何せ、この新幹線には「熊本の未来がかかっている」という声すらあるのだから。
「熊本県は、人口でも福岡県に次いで九州でも2番目に大きな県なんですが、例えば企業のブランチにしても、博多に『九州事業部』があって、その下に『熊本出張所』があるといった形のため、どうしても熊本には機動力に欠けるという側面があるんですよ」。根っからの熊本人としては憤懣やるかたないといった表情で話すグリズリー松熊プロ。それだけによけい九州新幹線の全線開通を心待ちにしているようだ。やはり、熊本にとっては“悲願”なのである。

ボロボロのマニュアルが語るもの

 間もなくグリズリー松熊プロが仕事の都合で外出することになり、代わって取材に応じていただいたのが同プロのご次男である松熊孝司店長。まだ三十路前なので親父さんほど貫禄はないものの、短く刈られた髪に鋭角の眉でキリリと引き締まった面構えに、最近はあまり見かけなくなった「硬派」を感じさせる好漢だ。東京を経つ直前に「出口のない海」のDVDを鑑賞してきたせいか、どことなく「青年将校」といったイメージの孝司店長、こちらが恐縮するほどの非常に丁重なご挨拶に礼儀正しい人柄が表れている。
 学校を出たあと、しばらくは別の仕事に就いていたという店長、この仕事で最も心掛けていることは何かという問いに対して間髪入れずに「やはり『接客』の一言に尽きると思います」と回答した。ブルードラゴングループには、「これでもか」というぐらい細部にわたるサービスの徹底と統一を図るための門外不出の「マニュアル」があり、ボロボロになるまで何度も読み尽くされた形跡を見ればそれも頷ける話ではある。
 この「接客」については、いわゆる「流行っている店」の条件の筆頭にくるものであることは言うまでもなく、事実麻雀荘に限らず、いつも客で賑わっているような店は、どこも真心のこもったキメ細やかな接客ができている。特に「麻雀荘」という業種は、客に提供する「商品」によってライバルである他店との特異性を前面に打ち出すことが難しく、とにかく「何か」を徹底し、それに特化させねばなかなか客のハートを掴むことは困難だ。生活習慣が成熟・多様化していく中で、麻雀以外にもさまざま余暇の楽しみ方を皆が知っている現代においては、なおさらであろう。
 その「何か」が、このお店では「レベルの高い接客」なのだということだろう。孝司店長も、現状に満足するような驕りはないとはいうものの、この点においてはかなりの自信を持っているとはっきり言ってくれた。しかし、どこまでも真面目さを感じさせてくれる人だ。
 と、そこに妖艶なチャイナドレスに身を包んだ若い女性スタッフが登場。何でも、本来であれば退勤の時刻なのだが、今回の取材に合わせてわざわざ残ってくれていたという。これはインタビューしないわけにはいかないと、早速取材対象をバトンタッチすることにした。

 お話を伺ったのは、「ナオ」さんと「さちえ」さんのお二人。先輩格の「ナオ」さんは、非常に瞳の澄んだ小顔が魅力的なモデルタイプで、活発な女性という印象を受けた。店長を取材している間もひっきりなしにフロアを行き来しながら常に店内に注意を払っており、仕事のできる女性だ。
 一旦お店を辞めてまた復帰したという経験の持ち主である「ナオ」さん、その時に、戻ってきたことを常連客が喜んでくれたことが忘れられないという。いや〜、いい話ではないか。きっとその感動が「ナオ」さんの誠実を支えているのだろう。
 一方、後輩の「さちえ」さん。福岡出身で、現在熊本大学に学びながらアルバイトスタッフとして勤務を始めて1年の「さちえ」さんは、笑顔が可愛いアイドルタイプ。緊張のせいか、言葉も控えめなところにまた好感が持てる。とにかく常に笑顔を絶やさない「さちえ」さん、きっと人気も高いことだろう。

 取材を終えて、しばらく卓に入って打たせていただく。その話は次回に譲るとして、夕方お店を出て次のアポイント先に向うべく例の広いアーケードを歩いていると、勤務を終えた私服の「さちえ」さんを偶然見かけた。(先ほどはどうも…)と声をかけようと思ったが、どうやらお友達と一緒の様子、ヤボなことはやめておいた。
 その時の「さちえ」さんの笑顔は、お店で見かけたそれと全く変わりはなく、それを見た僕は何だかとてもうれしくなったのだった。

【写真】左から、前列:「さちえ」さん・「ナオ」さん・「あさみ」さん、後列:一関さん・孝司店長・グリズリー松熊社長


 (その3につづく)






Copyright (C) 2007 nihon amusement service. All Rights Reserved.





第1話
博多の巻
その1
その2
その3

第2話
熊本の巻
その1
その2
その3
その4

第3話
山口の巻
その1
その2
その3
その4