8.親父のるつぼ・浦和
旅打ちを始めてから初の2連敗に「そろそろここも潮時か…」と珍しく弱気になる。そう、この雀屋に来てからというもの、今まで出会ったことのない凄腕の打ち手たちに、斉藤流も門前払いをくらっていた。
常識破りともいえる打ち筋、絶妙な勝負勘を目の当たりにし、オレはあらためて麻雀の奥深さと厳しさを思い知らされた。というよりも、百戦錬磨のミラクル親父達に驚くばかり、あいた口も塞がらない状態であった。この雀屋には魔物がいるらしい。
そんなミラクル親父達がいる「大元荘」に連日連夜の来店をする。だが今夜はオレの懐具合から「旅打ち」最後の日になるかもしれない。しかも初戦にラスを引いたとたんに店からアウトだと思いながら、そんな様子を見せずに卓へ案内される。
東家スタートでドラが
です、まだ動きはありません」と案内され、オレは笑顔で「よろしくお願いします」と挨拶する。そして覚悟を決めて戦闘準備に入る。
さっそく親につき先制攻撃だ。オタ風を仕掛けてホンイツまたは役牌バックのブラフをかます。これで親父達も字牌が切りづらいだろう。親父達が絞ったり、回してくれれば御の字だ。得意の出るポン見るチーで「主導権はオレがとるぜ」と仕掛けまくった。
すると下家の親父が「入れ込みすぎじゃないの!?じゃあ、気をつけなリーチだ」と牌を曲げてきた。ひよっていられないオレは全ツッパ態勢だが、不安なことがある。テンパイしてはいるが、役がないのだ。
これから考えられる役といえば、リンシャン、ハイテイ、チャンカンしかない。滅多にできるものではないが、親をキープしたいオレは、形テンでひたすら全ツッパする。テンパイ連荘に持っていければよしとしよう。斜眼帯を付けて、気が付くと8スジも通しているオレであった。
流局まであと2巡となり、ゴールも見えてきた。しかもハイテイはリーチをしている下家の親父だ。「ほら打て親父、ふっふ」と、思わずニヤ笑いするオレ。そしてオレの最後のツモ番、なんと役なしの
をツモ。
「くっそー、サンソーめ」と思った瞬間、下家がハイテイで
を切り。オレは思わず「ロッ……ンドンは霧の都、テンパイ」と、流局を目前にチョンボするところだった。
親父の待ちはフリテンの糞バッタだった。これで主導権を握ったオレは、その日はやりたい放題、食い放題だった。一回もリーチを掛けずに、終わってみればバカ勝ちだ。そう、気が付けばオレがミラクル親父になっていた。