第19期最強戦本大会。予選から各人の戦いぶりを見ていた私は、決勝の面子に心が躍った。それぞれが熟達した腕前の持ち主であり、類い稀なる好勝負が予見できたからである。そして、プロ選抜から唯一決勝に残った張敏賢が、どのように三者と戦っていくのか、非常に楽しみであった。

  並びは起家から、段谷昭夫・鈴木郁孝・鈴木優・張である。
  東1局、南家鈴木(郁)が8巡目にリーチ。

ドラ

  読者予選を勝ち抜いて、見事ここまで残った鈴木(郁)は、日本プロ麻雀連盟のC2選手である。プロ選抜枠から、連盟を代表して今日の本大会に臨んできた荒正義、前原雄大、二階堂亜樹といったそうそうたる顔触れを押さえ、堂々の決勝進出であった。
  10巡目、リーチを受けた張はこの国士リャンシャンテン。

ツモ ドラ

  半荘1回の勝負である。第31・32期最高位であるトッププロ張は、ラス親に向けての堅実な試合展開を見据えていた。
  開局早々、ここで無筋を3種押す蛮勇を嫌い、張は現物を切って手仕舞い。ところが11・12巡目にと引き、この形の聴牌を逃してしまう。



リーチの鈴木(郁)が直後にをツモ切って――、次巡にツモ和了り。

ツモ ドラ

  張の余り牌は、全て通っていた。それでも張の表情には微塵も悔やんだ様子はない。
  張は、安易な勝負による結果論より、プロらしい過程を見せることを大事にする。
  勝っても負けても、自分の意思のある麻雀を見せたい――、そう言って、張があの席に着いたのを思い出した。

  東2局、ドラ暗刻のチーテンを入れた段谷から、その張が静かに出和了る。

ロン ドラ

門混七対子の満貫。張は開局から続いていた悪配牌を綺麗にまとめての和了りであった。

  不運の放銃となった一般の段谷は、予選の最終戦に大トップを取り、雀豪風間杜夫をかわしての決勝。その穏やかな物腰に対して、豪胆な和了りが印象的な、さん京都店の代表選手である。
  点棒を失った段谷だったが、東3局に

ドラ

  ここからドラの受け入れを固定する打。13巡目に待望のを引いてリーチ。一発ツモ。

ツモ(一発) ドラ

  この3000・6000で一気に息を吹き返す。

  さて、ここまで和了りのない鈴木(優)。私はこの選手を知っていた。その端正な顔立ちと、巧みな打ち筋に見覚えがあった。鈴木(優)は、驚くべきことに昨年の大18期最強戦でも一般で本戦に進出し、私も対戦していたのである。今日は予選で3連勝と力強い麻雀を見せ、昨年の雪辱を果たすべく、決勝の椅子を勝ち取った。

  東4局、ラス目のその鈴木(優)。

ドラ

  ここから打と行って和了り形を模索する。ツモと来て、ドラの切り。


  この道筋が光明を得る。ツモでリーチ。こちらも一発ツモ。

ツモ(一発) ドラ

  鈴木(優)の満貫ツモで、全員が綺麗に平たくなって南入となった。まさに一進一退の決勝らしい好勝負である。
  点棒状況は、段谷から順に25000・24000・25000・26000という大接戦である。半荘1回の決勝は、南風1回のより濃密な勝負へと凝縮されることになった。

  南1局、6巡目に東家段谷がを叩く。

ポン ドラ

  チャンタドラドラで仕上がれば大きいが、南家鈴木(郁)が9巡目にリーチ。



親を押さえつける、感触の良いメンタンピン。しかし、リーチの時点で待ちは1枚しか残っておらず、張に流れてしっかり降りられてしまう。
  そして18巡目、受けながら聴牌を入れていた段谷の手に、無骨な感触のその牌が踊った。

ポン ツモ ドラ

  ドラ単騎の2000オール。三者の気概を揺さぶる、重い和了りである。

  南1局1本場、今度は西家鈴木(優)が3巡目早々にリーチ。

 ドラ

  ドラ雀頭のカン待ち。リーチ後にを切ったところで、イーシャンテンだった北家の張がを掴んで放銃。裏ドラで張には手痛い満貫となる。
  ラス親はあるが、南2局開始時で張は15700持ち。段谷は32000、鈴木(優)は31300と、大きく離されてしまった。
  南2局は南家鈴木(優)と西家張が仕掛けて共に聴牌、流局。

  南3局。親の落ちた鈴木(郁)だが、丁寧に手をまとめてリーチ。

 ドラ

  これを混一で聴牌していた東家の鈴木(優)から出和了りするも、裏ドラ乗らずの2000.
  段谷と鈴木(優)が若干抜けたまま、運命のオーラスを迎える。

  南4局――。ここまで点棒は、段谷30500、鈴木(郁)21800、鈴木(優)30500、張17200である。
  段谷と鈴木(優)は和了り競争、鈴木(郁)はその二人と8700点差を詰めなければならない。一方の張は、13300点差。満貫ツモ1回で届くとは言え、厳しい状況であることは誰の目にも明らかだった。
  東家、張の配牌は、

 ドラ

  対して、北家鈴木(優)は


  と、四者の中で最もまとまっている。第1ツモで、いきなりのイーシャンテン。



  段谷の配牌は悪く、和了りがあるとすればやはり鈴木(優)であろうと思われた。
  2年連続で激戦の読者予選を勝ち抜くという偉業を成し遂げた鈴木(優)。彼は過去、最高位戦に所属していた麻雀プロであった。地元に帰って雀荘を開くという夢があり、そのため競技選手は引退したのである。
  それでも彼は打ち手としての情熱を忘れられず、昨年・今年と最強戦に出場して、見事この大舞台に駒を進めた。もう少し、もう少しで最強位に手が届く――。
  3巡目に張はペンを引き入れ、戦える形を得る。

 
  そして6巡目、ツモ

 
  この苦しい点棒状況。ラス目の親で、待望の先制聴牌である。ノミ手ではあるが、を切ってリーチするのが自然ではないだろうか。
  張は落ち着いて場を見渡し――、ゆっくりと打として聴牌を崩した。
  次巡を引いて、打

 

  三色の、イーシャンテン。
「プロとして、自分の意思を貫きたいんです――」
  後に張はそう語った。
  熟慮無く、場に高い筒子のカンチャンで安易に曲げること、それを良しとしなかった。この牌姿なら、一通や、三色を追える。プロらしい、自分らしい過程を踏んで、それで負けたなら仕方ない。
  見る者全てが、張が牌をツモる度に息を呑んだ。(――くっつけ!――くっつけ!)
  それは張を応援するというより、張のプロたる意思と矜持に、皆が共振している心の声だった。
  12巡目、ツモ
「リーチ!」
  満を持しての、張の声。

 

  は、山に1枚。次巡、鈴木(優)が追いついてリーチ。



  役無しのシャンポンだが、は2枚残っている。無論鈴木(優)は、和了ればトップ。しかし――。
  昨年も今年も、素晴らしい戦いぶりを見せてくれた彼を、個人的には強く讃えたい。しかし牌山の巡りが選んだのは、最後までプロらしい過程を重んじた張だった。

ロン ドラ

  鈴木(優)は親満の放銃で脱落。
  オーラス1本場、張はトップの段谷まであと300点。
  それぞれ返す刀は残っておらず、やはり張が鈴木(優)から和了って激戦を制す。

ポン ロン ドラ


   
麻雀は、結果を残すのが、非常に困難なゲームである。その勝負の性質から、「今日絶対に勝つ」といった 意気込みや気合いが全く意味を成さないことを、私たちは痛感している。だからこそ、プロとして内容のある 麻雀を打ち続けること、結果論よりそこに至る過程を疎かにしない姿勢を、張は何よりも大切にしていた。
  あの開局時、無謀な国士が成就するより、よっぽど価値のある勝利であったように思う。
  第19期最強位は、張敏賢。まさに最高で、最強のプロである。

観戦記 須田良規(日本プロ麻雀協会)
荒 正義
日本プロ麻雀連盟
佐々木寿人をバックに背負い出場。予選1回戦好調に滑り出しオーラスの親番を迎えるも、3着目の早川に役満をツモられ親っかぶり。その後も今ひとつ乗り切れず昨年に続いての2年連続決勝進出はならず。
尾崎 公太
最高位戦日本プロ麻雀協会
途中牌に恵まれず、予選最終戦はトップ条件。
トップとは4700差の2本場で迎えたオーラス親番。安易にカンのリーチを打たず、切りダマ。次巡を持ってきて待ちでリーチ。ツモ待ちを模索したプロらしい打ち筋だが、残念ながら出アガリ。次局はトップ目に逃げられ決勝へ一歩及ばずだった。
風間 杜夫
俳優
戦況を見定め、好機の勝負手をアガりきる雀風で、芸能界きっての雀力。だが、1回戦では配牌・ツモともに苦しい展開。短期決戦なので、つい無理を承知で前へと出たくなるが、風間は自分の麻雀を貫く。東4局、親のリーチを受けた風間の手牌は、

ドラ  ツモ
ここまでの苦しい展開から、リーチへといきそうだが、ここでも我慢。勝負所はまだ先とばかりに打でまわる。この自分の雀風を信じ、それを貫く強さが、2・3・4回戦の怒涛の反撃を呼ぶ。
片山 まさゆき
漫画家
第1回最強位を取ってから早20年。今回も片山は麻雀ファンの心を唸らせる闘牌を展開。1回戦から役満をツモられるなど、苦しい状況が続く中、「読者代表に楽しんでもらう」という言葉通り、最後まで片山らしい闘牌を繰り広げた。
先崎 学
プロ棋士
どっしりとした手役重視の打ち手、先崎。振らず、アガらず、しかし、他家の大きな手を親っかぶり…という厳しい状況が続く。配牌とツモに恵まれず、気づけば幾度となく、チートイ寄りの重い牌姿に。2回戦はオーラスをトップまで1600点差の2着で迎えるが、決勝卓にも残った鈴木優が先崎の切ったをポン。その後ツモり、3着終了と悔しい結果となった。
成瀬 朱美
日本プロ麻雀協会
「短期戦なので強気でいこうと思っていました」と述懐する。1・2回戦はラス・ラスだったが3回戦で片山とのデッドヒートを制しトップをとる。続く4回戦、怒涛のアガリを続け、2人をトバし、一時7万点近くまで得点を伸ばす。奇跡の決勝進出かとギャラリーを沸かせたが6位に終わった。捲土重来。
二階堂 亜樹
日本プロ麻雀連盟
プロ選抜戦女性1位で勝ち上がった二階堂だが、本大会では2.4.4.4.と残念ながら最下位。「1〜3回戦とも、プロが上家だから絞りがキツくて…」不発に終わったものの、役満テンパイを2回も入れた!!」
福本 伸行
漫画家
恐るべき感性と爆発力を誇り、漫画家大会でも怒涛の大連荘で優勝を果たした福本。2回戦では、またも見せ場を作る。リーチ・リーチと他を圧倒し、一時は5万点超えの5本場まで連荘。鷲巣様ぱりの強さを見た!!
前原 雄大
日本プロ麻雀連盟
歌舞伎町のモンスターと呼ばれる前原。力技でねじ伏せる打ち筋を連想するが、繊細かつ緻密である。そして2回戦、5万点超えの独走をする福本伸行からアガったハネ満は、プロの意地がこもる見事なアガリであった。
吉田 基成
日本プロ麻雀協会
雀竜位として挑んだ最強戦。下町の麻雀職人と異名を取る吉田は、序盤、軽快なアガリを重ねるも、後半の重く苦しい展開に苦しめられる。だが、どんな状況下でもアガリへの活路を模索するその闘牌に、雀竜位の風格を見た。
和田 聡子
最高位戦日本プロ麻雀協会
「配牌女王」の異名をとる和田だが、なぜか最強戦当日は未曾有の不ヅキに見舞われた。いつも平均2シャンテンの配牌がこの日は4シャンテン。勝負に参加することすらできず、不完全燃焼のまま会場を去った。
優勝 張敏賢
準優勝 段谷昭夫
【さん京都店代表】
3位 鈴木郁孝
【Lookup代表】
4位 鈴木優
【ウィング代表】
5位 風間杜夫
6位 成瀬朱美
7位 尾崎公太
8位 片山まさゆき
9位 前原雄大
10位 早川裕次郎
【ハートランド札幌ミニ代表】
11位 元島明子
【大成クラブ】
12位 芝美穂子
【All in代表】
13位 福井守
【All in代表】
14位 横井玲巳
【スライム】
15位 荒正義
16位 吉田基成
17位 福本伸行
18位 横井秀明
【G-1渋谷店代表】
19位 沼田敦
【はこパラ仙台店代表】
20位 浜谷好幸
【ラッキーバード代表】
21位 中村光浩
【ブルードラゴン福岡天神店代表】
22位 和田聡子
23位 先崎学
24位 二階堂亜樹
 
 

 

 
 
 
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