
|第1回|第2回|第3回|

藤崎は決勝が始まる前から、非常に落ち着いているように見えた。
プロ歴はまだ1年半と浅いのだが、場慣れしているというか、堂々たるものがあった。
藤崎と私はこの日初対面だったのだが、とても落ち着いていて、
物静かで温和な印象を受けた。
東2局親番の藤崎。
5巡目にドラの をツモ切り、8巡目1枚目の にチーテンを入れる。
東2局
8巡目ドラ 白 東家 藤崎
            チー
「良い仕掛けだな」と私は感じた。
確かに軽い。軽すぎるとまで言って良いと思う。
ドラを手放している上、河もいたって平凡。
他家から見たら被せ易い仕掛けである。
傍目にはこの手、完全に受けを考慮された仕掛けなのだ。
佐藤と水野には が現物、堀には が打てる。
各々の他に通せる牌も含めれば、押し返されても引く選択ができる。
ならば親である以上、安手でしかも多くの情報を与えてしまっていても、
攻め返されるまでの間の1500点聴牌を取るこの選択、私は十分な選択だと思う。
しかし藤崎の意図は全く違っていた。
チーテンを入れた瞬間、佐藤からリーチが入り一発放銃。
藤崎は単純に1500を取りに行っただけなのだ。
「温和な人」という第一印象の所為だろうか。
表情からは読み取れない、それでも確かに感じる気迫がそこにはあった。
よくよく考えてみれば、遠く浜松から対局の為だけに毎月上京してくるような男である。
内に秘めていた想いの強さは、やはり計り知れないものがあるのだろう。

ベテランでは金子正輝、若手では村上淳だろうか。
最高位戦の選手には気迫を露わにして打つ人間が多いように思う。
1打1打だけではなく、山に手を伸ばす仕草、吐く息の重さ、様々な所から情報を読み取ろうとする姿勢。
麻雀打ちとしてならばポーカーフェイスがベストだと思う。
しかし彼らのそれは恐らく、抑えようとしても滲み出てしまっているものだろう。
そしてそれは麻雀プロとして格好良く映る。
私たちにとって、彼らは憧れであり目標なのだ。
最高位戦若手選手の多くが、彼らの影響を強く受けている。
水野もそんな若手の一人である。
私もまたそうなのでよくわかるのだが、こういったスタンスで臨む対局は非常に疲れる。
無酸素運動と同じくらい、体力の消耗が半端では無い。
しかし決勝卓に着いている水野は、いつにも増して苦しそうだった。
本戦と決勝は同日に行われている。
確かに本戦での疲れは残っていそうだが、それは勝ち上がってきた者の姿ではなかった。
水野は準決勝のある1局を悔やんでいたのだ。
・準決勝a卓
東2局 西家 配給原点
4巡目ドラ
            ツモ
場には と がそれぞれ1枚切れ。
生牌だろうが、この牌姿からなら を切り出すのが普段の水野である。
しかし水野は打 とした。
準決勝開始時点で水野はトータルポイント首位だった。
そして、準決勝でラスさえ引かなければ決勝に残れるポイント状況だったのだ。
打 は打牌候補としてそれほど悪いとは思わない。
しかし水野の打牌理由は「ひよった」だけだった。
結果的にこれは最悪の選択となり、この半荘引いてはいけないラスを引いてしまうことになる。
準決勝b卓の結果に恵まれ決勝に残ることはできたが、
水野はこの選択をずっと引きずっていた。
並びや素点を兼ね備えたトップ条件である水野。
にも関わらず手が入らない。
大きな被ツモこそないものの、展開が思うように進まない。
下唇を噛みながら、東場ずっと耐え忍んでいた。
南1局
9巡目ドラ 東家 水野
            ツモ
「リーチ・・!」
かすれるような声とともに、この日初めて口を開く。
ようやく入ってくれた手。
最後の親番ということもあって、なんとしてでもあがりたかっただろう。
水野の仕草一つ一つから、それは確実に伝わってきた。
しかしその想いはいとも簡単に打ち砕かれる。
リーチの前巡からタンピンドラドラの聴牌が入っていた藤崎がツモ切り追っかけ。
これに水野が競り負け、満貫放銃となる。
悔しさを必死に抑え込み、代わりに「はい」という言葉を絞り出す。
まだ優勝の芽こそあるが、諦めてしまってもおかしくない。
それくらい心理的にも状況的にも厳しい満貫だった。
水野の吐く息が更に重くなったような気がした。

最高位戦8年目にして念願のAリーグ入りを果たし、今期が在籍1年目。
佐藤の実力、実績ともに決勝卓の面子では群を抜いているだろう。
対局と向き合う姿勢や観戦者に対するプロ意識からも、
32年の歴史を誇るプロ団体の最高峰で闘っている事を改めて感じさせてくれる。
実は最も優勝を望んでいたのは、佐藤だったのではないかと私は思う。
実績や経験に三者と明瞭な差があるとはいえ、半荘一回勝負である。
麻雀のゲーム性を考えれば、そこにある格差は無に等しい。
それでも佐藤はプライドの高い男である。
「負けるわけにはいかない」という想いは、四人の中で最も強く表れていたように思う。
佐藤はここまで目立った局面こそ無いが、
拾うべき所で和了を拾い、避けるべき所で放銃を避けている。
点棒状況は以下のとおりになっている。
南3局1本場
東家 佐藤 35600
南家 堀 27000
西家 水野 20500
北家 藤崎 36900
藤崎、堀、佐藤はトップ無条件。
水野はこのままの並びであれば、藤崎と素点で8700点以上差をつけたトップか、
佐藤が2着で終えるのであればトップ無条件である。
文責:佐藤 聖誠(最高位戦日本プロ麻雀協会)
|第1回|第2回|第3回| |